大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)554号 判決 1949年8月25日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人矢部克己久保田美英牧野敬治上告趣意第一乃至第四点について。

所論昭和二二年勅令第一号第一五條第一五條第一項によれば「覚書該当者は公選による公職の候補者の推薦届出又は選挙運動その他の政治上の活動をしてはならない」と規定し、そしてその推薦届出の中には「候補者の届出又は推薦届出に関する連署を含む」ものであることを明らかにしている。從って公選により候補者をして当選を得せしめる目的を以ってまずその推薦届出をなし次いでその選挙運動をなした場合においては、それら一連の行動が所論のように茲に所謂政治活動として一罪を構成することもあり得るであろう。しかしかかる場合においてもその一連の行動の中推薦届出の所爲のみを捉えて既に所謂政治活動をなしたものであると見ることを防ぐべき何等の理由も存在しないのである。本件公訴事実は被告人八塚純男は昭和二三年九月一五日その他の被告人は同月中旬頃、同年一〇月一五日施行の和歌山縣教育委員選挙の立候補者宮崎諦寛の推薦連署表に自ら署名捺印その推薦届出をなしたというのであり、原審は該事実を認定しているのである。そしてこの原審の事実認定は原判決挙示の証拠に照らしてこれを肯認するに難くないのである。されば原審が被告人等に対し、前掲勅令違反罪の既遂として擬律したのはむしろ当然である。所論の推薦の取消というが如きことは、犯罪既遂後においてその実害の可及的削減を試みた行動に過ぎないのであって、犯情に影響するところあるは格別、既に成立した犯罪の消長には何等の関係もない。もとより中止未遂を招來すべき道理はないのである。從って所論取消の事実を認定判示しなかったとしても原判決に所論のような違法があるとはいい得ない。論旨はすべて理由がない。(その他の判決理由は省略する)

よって旧刑訴四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例